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#113 第4回 Webサイト発注の教科書「準備不足」

Aug 05, 2025By habitus
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Webサイト発注の教科書
Wenサイト発注の教科書

「サイトリニューアル 準備」
 

~「見えないコスト」を劇的に削減する発注準備のステップ~


「Webサイトの全体戦略って言われても、そもそもWebの素人なんだし、何から手をつけていいか分からない…」
「結局、発注側でどこまでやればいいの? 面倒くさい作業が増えるだけじゃないの?」

第3回では、Webサイト制作における「丸投げ」(と制作会社が感じる状況)がいかにプロジェクトを迷走させ、期待外れに終わらせるかの話をしました。その根本原因は、発注者がWebサイトの「設計図の元になる情報」、つまり「全体戦略」を明確にしないことにある、と。

「『全体戦略』なんて、そんなこと言われても、うちの会社にそんな専門家はいないし、どこから手をつけたらいいんだ?」
そう思ったかもしれませんね。ご安心ください。いきなり建築家のように完璧な設計図を描く必要はありません。
しかし、巷では「準備8割、実装2割」などと言われるように、プロジェクトの成否は「事前の準備」で決まると言われます。Webサイトもまさにそれで、少なくともWebサイトという「建物を建てる目的」と「誰のためのものか」を明確にする準備は、発注者であるあなたにしかできない、極めて重要な仕事なのです。

この「発注前の準備」をやっておけば、後々発生する「見えないコスト」(無駄な会議、手戻り、不明確な指示による追加費用、そして「なんか違う」という無限ループ)を劇的に削減し、結果的にWebサイトを成功へと導く最短ルートとなります。準備を怠れば、あなたの会社は気づかないうちに「残念ながら予選落ち」となってしまうでしょう。
なぜなら、Webサイトは、あなた自身が何者で、どんな価値を提供するのかを自己紹介する場だからです。それが曖昧なままでは、新しい見込み客から「よくわからない会社」と見なされ、気づけば競合他社に顧客を奪われている、という悲劇が起こりかねません。

なぜ、あなたの会社のWebサイトは「なんとなく」でしか作れないのか?


私たちはこれまで、多くのWebサイト制作の現場を見てきました。発注側が「いい感じに」とだけ伝え、制作会社は想像力を駆使して「言われた通り」にサイトを作る。しかし、そのサイトが、なぜか「使いものにならない」「成果に繋がらない」のはなぜでしょう?

それは、Webサイトが「あなたの会社のビジネスそのものを表現する媒体」だからです。
この「Webサイトは自社媒体です」という言い回し、かなり前から制作会社やWebマーケティングに関わる会社が使っていますよね。「媒体=メディア」です。テレビやラジオ、新聞、雑誌といったメディアは、常に新しいコンテンツを提供し続けています。媒体という以上、コンテンツを更新していくのが条件みたいなもの。
「いやななにも、ウチの会社はそんな大きなマスメディアではないし、そう言われてもね…」と思うのもごもっともなんですけど、少なくとも自社ビジネスを表現する"メディア"という意味では同じなのです。ちょっと大袈裟に思われたかもしれませんけどね。
にもかかわらず、Webサイトを"ある程度"「自社媒体」として捉え、積極的に運用している会社は、残念ながらかなり少ないのが現実です。

媒体を運営する、というのは、それをどんなものにしたいか?を自分たちで具体的に詰めていけなければ、なかなか運営するのは難しい。Web制作のプロではありますが、制作会社はあなたの会社の業界、製品、サービス、顧客、そして社内の文化や強みについては、専門家ではありません。彼らは、あなたという顧客から「材料(情報)」と「レシピ(方向性)」を教えてもらって、初めて最高の料理(Webサイト)を提供できるのです。

あなたの会社が「なんとなく」の状態で発注すれば、制作会社は「なんとなく」でしか作れません。そして、その「なんとなく」なサイトは、ターゲットとなる顧客にも「なんとなく」な印象しか与えず、結果的に誰の心にも響かない、成果に繋がらないものになってしまうのです。この「なんとなく」の連鎖…ヤバイ感じしますよね。

「見えないコスト」を削減する!Webサイト制作の3つの「思考」ステップ

WEBサイト構築の準備:三つのステップ
Strategic web project preparation

では、具体的に何を準備すれば良いのでしょうか? 難しい専門用語も専門知識も特に必要ありません。あなたの会社のこと、ビジネスのことを、シンプルに整理するだけです。これは、かつて別の連載(『中小企業のためのコンテンツ戦略入門』)でもお話した「コンテンツ戦略」の入り口にも通じる、極めて基礎的でありながら、Webサイトの成否を分ける重要ポイントです。

ステップ1:Webサイトの「存在意義」を問い直す
まずは、あなたの会社のWebサイトが「なぜ今、ここに存在するのか」「一体何のためにあるのか」を、抽象的でなく具体的に掘り下げてみましょう。

・なぜ今、このWebサイトが必要なのですか?

    • 「もう古いから」という漠然とした理由ではなく、具体的に「何が古いのか?」「その古さがどんなビジネス上の問題を引き起こしているのか?」を掘り下げます。
    • 例えば、「問い合わせが月1件しかない」という課題に対し、「Webサイトの情報が不足しているからか?」「導線が分かりにくいからか?」といった具体的な原因にまで思考を巡らせてみましょう。

・このWebサイトで、あなたの会社は何を達成したいのか?

    • Webサイトを通じて、最終的にどんな状態を目指しますか?(例:「問い合わせ数を今の3倍にしたい」「月に5件の採用応募を獲得したい」「会社のブランドイメージを刷新したい」「既存顧客へのサポートを充実させたい」など)

これは、あなたの会社のWebサイトが「どこへ向かうのか」を示す「指針」です。これがないと、制作会社はどの方向へ進めばいいか分かりませんし、完成しても何が成功なのかすら分かりません。「え、KPIとか、GA4とか、ちょっと難しそうなことは?」と詳しい方は思うかもしれませんね。その通りです。ただ、現段階で複雑な数値目標は不要です。まずは、「何が課題で、どうなりたいか」というシンプルな目的を共有することが重要なのです。

しかし、この「シンプルな目的」を明確に言語化することこそが、意外にも多くの会社で「できない」課題になっているのです。「もう古いから」「前の担当者が辞めたから…」「事務所移転したから…」あなたが制作会社からの問いに、思わず苦笑してしまうような答えしか返せないなら、ちょっと要注意です。そう言うとキツイと思われるかもしれませんが、これはWebサイト担当者が、会社の全体像や理念から遠い存在である、という現状の現れかもしれません。あなたの会社は、Webサイトに「何をしてほしいのか」すら、まだ明確ではないのかもしれないのです。

ステップ2:Webサイトが「誰に語りかけるべきか」を深掘りする
次に、Webサイトが誰に情報を届け、誰の心を動かしたいのか、「ターゲットユーザー」を多角的に掘り下げてイメージしましょう。

・あなたのWebサイトは、一体「誰」に向けたものですか?

    • あなたの会社の製品やサービスを「一番買ってほしい」「利用してほしい」のは、どんな人ですか?
    • 彼らはどんなことに興味があり、どんな悩みを抱えていますか?
    • 彼らはWebサイトに何を求めていますか?(例:「商品の詳細な情報」「会社の信頼性」「問い合わせ先」「事例」など)

制作会社が『ターゲットは幅広い顧客層です』と言われても、どんなWebサイトを作れば良いのか、絞り込めないのです。前回も書きましたけど「ターゲットユーザーは日本国民です」と自信満々に言われた制作会社もありました。もうおわかりですよね。これでは「誰に響かせたいのか」が見えませんよね。

これも前回の繰り返しになりますが、ここが最も考えやすい部分であり、同時に最も間違えやすい部分でもあります。多くの企業が、普段付き合いのある「既存の優良顧客」だけをターゲットにしがちです。しかし、彼らの多くはすでにあなたの会社のことを既によく知っており、Webサイトを熱心に利用する「ネットユーザー」ではないこともあります。Webサイトで本当にアピールすべきは、これから顧客になってほしい「潜在顧客」でしょう。
「こんな人たちにお客様になって欲しい」という具体的な像を、仮説で構わないので描く必要があります。
もちろん、これまでのアクセスデータなどがわかるのであれば、Google Search Consoleのようなツールも活用し、調査するのもよいでしょう。

中には「うちはスマホで見る人いないから」「仕事柄、新規営業はネットでは無理だし」「検索して見に来る人いないから」と、Webサイトの役割そのものを限定的に捉える担当者もいます。士業や官公庁、半官半民的な業種でよく聞かれる話ですが、彼らはWebサイトを単なる「資料置き場」や「名刺代わり」としか考えていない場合もあります。しかし、世の中の多くのビジネスパーソンは、BtoBであっても、知らない取引先をまずネットで検索します。実際あなたもそうしていますよね。おそらく…。
あなたの会社の潜在顧客は、あなたが気づかないうちに、Webで競合他社を見つけ、取引を始めているかもしれません。
なぜ、自分の会社のことになると、他の会社の人がやっていることとは違うことをやっているのだと思い込むのでしょうか? ある意味、「自分よりも自社の顧客のデジタルスキルは低い」と思いたいのかもしれません。自分自身もまだそれほどデジタルスキルが高いわけではない、という意識から、会社全体がデジタルシフトすることへの抵抗感がそうさせているのかもしれません。これは経営者も同様です。
そして、この意識こそが、デジタル時代の「予選落ち」を招き、「デジタル格差」を生み出しているのです。

この傾向は、特に同業他社や同一業界のWebサイトレベルに合わせようとする際に顕著です。リニューアルの際に「どんなサイトがいいですか?」と担当者に聞くと、ほぼ同業他社のものが出てくるのは、他に参考にしていいものが分からないから、というのもあるでしょう。しかし、そのことが業界全体のリテラシー基準を停滞させている可能性もあります。実際にWebサイトを閲覧するユーザーは、業界の「当たり前」よりも、もっと高いリテラシーを持っていることもあれば、もっと丁寧に導線などをうまく導いてあげる必要がある場合もあります。顧客のリテラシーが低く、免責事項を山ほど書いておかないといけないような特殊なケースもあるでしょう。

「伝える」という意思がないWebサイトは、どんなに素敵に作っても、残念ながら「意味がない」のです。Webサイトは「誰に語りかけるべきか」を決定する、最も重要な要素です。ターゲットが曖昧なWebサイトは、誰にも響かない、まるで「見る気のしない駅の置きチラシ」のような存在になってしまいます。

ステップ3:Webサイトの「コンテンツの核」を整理する
最後に、Webサイトを通じて「何を伝えたいのか」「どんな情報を提供したいのか」、そして「なぜ伝える必要があるのか」という、コンテンツの最も本質的な部分を整理します。

    • あなたの会社が、Webサイトを通じて一番伝えたいメッセージは何ですか?
    • あなたの製品やサービスの「ここだけは譲れない」強みは何ですか?
    • 顧客があなたの会社を選ぶべき「理由」は何ですか?

会社の根幹となる「理念」(Mission/Vision/Valueといった言葉で表されることもありますね)は明確ですか? 例えば、創業者の思い、社会に対するメッセージ、従業員に対する態度、顧客との関係性など、経営者の頭の中にははっきりとあるはずですし、それはWebサイトの「中核」となる部分です。
「そんなことまでWebサイトの問題なのか?」と思われるかもしれません。しかし、これらはWebサイトの「中身」を構成する上で不可欠な要素です。制作会社は、あなたの会社の「中身」を全て知っているわけではありません。

もちろん、会社の理念が明確に文章化されていなくてもWebサイトは作れますし、制作会社に伝えるのは骨が折れるかもしれません。実際、多くの中小企業では、これらの理念が明文化されていなかったり、経営者の頭の中にしかないことも珍しくありません。しかし、Webサイトの構築を通じて、改めて自社の理念を見つめ直し、言語化することは、経営者にとっても頭を整理する意味で非常に有益な機会となるはずです。ハビタスでは、Business Model CanvasやValue Proposition Canvasといったツールを利用して、MVVを整理してもらうこともあります。骨が折れる作業ですが、ここを一緒にしっかり検討することは、経営者にとって自身のビジネスを深く見つめ直す「愉しい時間」になるはずです。「つらい…時間」かな?

これらは、Webサイトという「家」を建てる上での「骨格」となる部分です。制作会社は、この骨格に肉付けをし、デザインという皮膚をまとわせ、システムという神経を通わせるプロです。しかし、骨格が歪んでいては、どれだけ美しい皮膚をまとっても、結局は「なんか違う」サイトになってしまいます。

「めんどくさい」は、「無駄なコスト」への第一歩


「えー、そんなことまで発注側でやらないといけないの?!」
そう思われたかもしれません。正直、面倒くさいですよね。
しかし、考えてみてください。制作会社は、あなたの会社のビジネスの専門家ではありません。あなたの会社の理念を深く掘り下げたり、ターゲット顧客のペルソナを詳細に分析したりする役割は、本来、あなたの会社が担うべき部分なのです。ここを「丸投げ」しようとすればするほど、制作会社は「あなたの会社が本当に何をしたいのか」という本質を見失い、「見た目だけはそれなり」のWebサイトしか提供できなくなってしまうのです。

さらに、ここで理解しておきたいのは、デジタルの世界では「未完成状態」での納品が当たり前だという現実です(ちょっと怒られちゃうかもしれませんが…)。WordPressの編集画面のプレビューが実際の表示と異なることがあるように、Webサイトは車や家電のように「完成品」として納品され、その後一切手が加えられない、というものではありません。まるで車を買ってハンドルが取れても「次のバージョンで直します」と言われるような話ですが、デジタル世界ではそれが「普通」なのです。制作会社の言い訳のように聞こえるかもしれませんけど、みなさんも普段経験しているのではないでしょうか?(各種ソフトウエアのアップデートを思い出してみてください)
長くデジタルに関わっている私たちのような制作会社には当たり前でも、サイト等発注した際に、お客様からすれば「不良品ではないか?」と思うのも無理はありません。しかし、それがデジタルの特性であり、常に改善・アップデートされていくという前提なのです。

この「未完成」という意識に加えて、Webサイトの「有効期間」についても考えてみましょう。制作会社は、Webサイトを決して10年もつものと思って納品していませんし、発注者側も「まさか10年もつと思っていないよね」と暗黙の了解としちゃっていることが多いのです。
にもかかわらず、一方で発注者側は、あいかわらず20年くらいもつもの、メンテナンスの必要ない「完成品」を「買う」と考えている風に思えるときがあります。どこかで「完成品は無理だよね」という共通の了解を得るところから始めないと、イライラしたり、トラブルにもなりかねません。

かつての日本人(バブル期までの)は、おそらくこのような「ゆるい」品質は許せないと感じたかもしれません。厳密さや生真面目さがあったからとかいわれることのようですね。
しかし、デジタルのスピードについていくためには、完璧を目指しすぎない「ある程度のゆるさ」も必要になってきています。「テキトーな日本人が量産されている」という言い方は言い過ぎかもしれませんが、「完璧主義」のままでは、デジタル時代の変化についていけないという現実があるのです。変な話ですけど…。むしろ、常に手を入れていくものだという風にポジティブに考えたいものです。

要するに、Webサイトがうまくできない最初の掛け違いは、制作会社にちゃんと情報が伝わっていない(伝えていない)ことにあるのです。それは伝える準備や資料ができていない、社内で検討されていないということです。
その伝達をきちっと行わないで、制作会社の理解力のせいにしたりしているようでは、うまくいくものもうまくいかないのは自明のことです。一生懸命伝えたつもりなんだけど…という人もいるかもしれません。そんなときは制作会社のせいにしたくなる気持ちもわからないではない。
しかし、ここはもう一踏ん張り、制作会社と膝つき合わせて理解してもらうように努めましょう。
このことはWebサイトにおいてアクセスユーザーに「伝える/伝わる」ということを真摯に考えるきっかけになります。
制作会社に伝えられないことが潜在顧客に伝わるのか?…考えてみてください。(このあたりは以前の連載『中小企業のためのコンテンツ戦略入門』も参考にしてみてくださいね)

この発注前の準備に時間と労力をかけることは、決して無駄ではありません。むしろ、これこそが「見えないコスト」を削減し、Webサイトが「期待外れ」に終わる悲劇を防ぐための、最も効果的な「適切な投資」なのです。これは、あなた自身の業務効率を上げ、制作会社との関係を良好にし、最終的にあなたの会社のビジネスを加速させるための、「地味だが、最も重要な一歩」と言えるでしょう。

次回は、いよいよ制作会社選びの「コンペ」について掘り下げます。多くの企業が陥りがちなコンペの落とし穴と、本当に「賢い制作会社選び」とは何かを解説していく予定です。