#269 AI検索において「一次情報」が重要と言われるのはなぜか? あるいは「SEOからLLMOへ」の誤謬について
1. 「いい記事を書けば勝てる」という残酷な嘘
ここ10年、私たち中小企業は「Web集客」という言葉に振り回され続けてきました。
「これからはコンテンツの時代だ」「ユーザーの役に立つ解説記事を書け」
そう言われて、自社の技術やサービスについて一生懸命ブログを書きました。
しかし、検索上位を独占したのは、資本力のある「比較ポータルサイト」やまとめサイトばかり…。本家本元の私たちのサイトは検索結果の奥底に埋もれ、残念ながら誰の目にも触れませんでした。
2. SEOとは「高い会費を払った人」のための名刺交換会
SEO(検索エンジン最適化)の世界は、「入場料が高い名刺交換会」のようなものです。 この会場で名刺を配り、商談できるのは、高い会費(ドメインパワー、被リンク対策、大量の外注費)を払った「VIP企業」だけです。
私たち中小企業は、「これなら参加できるかも」となけなしの予算を握りしめて参加したものの、VIPエリアには入れず、会場の隅っこで誰にも話しかけられないまま、グラスのシャンパンの泡が消えていくのをただ見つめて終わる…。
SEOというシステムは、「人気者(被リンク)」と「金持ち(量産)」が勝つように設計された「人気投票」だったのです。
3. 「SEOからLLMOへ」という言葉の違和感
そんな中、AI検索の台頭により、業界では「SEOからLLMO(GEO)へ」というスローガンが叫ばれるようになりました。
「検索エンジン対策はもう古い。これからはAI対策だ!」と。
また新しいトレンドに振り回され、お金がかかるのかとウンザリしている経営者の方も多いでしょう。
しかし、この「SEOからLLMOへ」という言葉は、二重の意味でおかしな話だと私は考えています。
違和感の1つ目は、「ターゲットが違うものを同列に比較している」点です。
SEO(Search Engine Optimization):
「検索エンジン」に対して、自社サイトを上位表示させる対策。
LLMO(Large Language Model Optimization):
「LLM(AI)」に対して、自社の情報を正しく理解させる対策。
おわかりでしょうか。そもそも伝える相手が違うのです。ここから導き出される重要な事実は、LLMOは「マーケティング施策ではない」ということです。集客のためでも、広告宣伝のためでもありません。
単にAIという新しいシステムに対して「私はここにいますよ」と宣言することなのです。 これをデジタルマーケティングの会社が、これまでのSEOの知見を利用して「AI集客します!」と謳うのは、明らかな誤解か、ビジネス的な野心のような気がするのです。
4. SEOは「広告宣伝」、LLMOは「会社登記」である
この違いを、会社の設立に例えて比較表にまとめてみましょう。
SEO = 「広告宣伝(どう良く見せるか)」
行動:チラシを撒く、看板を出す、CMを打つ。
目的:有名になること、客を集めること。
勝因:予算と、声の大きさ。
LLMO = 「会社設立・登記(誰であるか)」
行動:法務局に届ける、定款を作る、実印を押す。
目的:社会的に「存在」を認めさせること。
勝因:書類(記述)の正確さ。
これまでのSEO偏重の時代は、いわば「会社登記(LLMO)をする前に、一生懸命に広告宣伝(SEO)だけをしていた状態」と言えます。
大企業は登記が甘くても「ああ、あの有名な会社ね」と認知されますが、無名の中小企業が未登記のまま大声を出しても、誰にも信用されません。
ここで、先ほどの「違和感の2つ目」に気づかれたはずです。 「SEOからLLMOへ」は、順番が逆なのです。正しくは「LLMO(登記)をしてから、SEO(宣伝)へ」と進むべきなのです。

5. AIは「一次情報(事実関係)」を最優先で見る
登記(LLMO)を行う際、私たちは自社のWebサイト(一次情報)の裏側に「構造化データ」という仕様書を記述します。
これに対し、SEOの専門家はよくこう反論します。 「AIは第三者の口コミを重視する。企業が自分で発信する『一次情報』なんて意味がないし、信用できない」と。
確かに、「どっちが美味しいか?(評価)」という質問なら、AIは口コミを見るでしょう。SEOの専門家たちがそう主張するのは、彼らがずっと「人間が読むためのルール(SEO)」を見て戦ってきたからです。そういう意味では間違ってはいない。
しかし、B2Bや専門技術の世界では、評価の前に「事実関係(ファクト)」と「仕様(スペック)」が重要です。
- 私たちは「何屋」なのか。(Organization)
- どんな「製品」を作っているのか。(Product)
- どんな「課題」を解決できるのか。(Service)
これらは「自画自賛」ではありません。「身分証明」です。 名刺交換会の隅っこに追いやられていた私たちは、この「身分証明」をAIに直接渡すルートを持っていませんでした。だから「いないもの」として扱われてきたのです。
AIは「A社とB社、どちらが優れているか?」という問いには口コミを探すかもしれません。 しかし、「A社はどこにあり、何の免許を持ち、どんな仕様の製品を作っているか?」という絶対的な事実(ファクト)についてはどうでしょう。
AIは出所不明の口コミではなく、A社が自ら発行した「構造化データ(身分証明)」を最優先の参照元(Ground Truth)とします。
なぜなら、GoogleやMicrosoft自身が、AIのために「Schema.org」という事実記述用の世界共通フォーマットを用意しているからです。
「自社で書けるなら、嘘を書いて自分を大きく見せられる(ハックできる)じゃないか」と思うかもしれません。しかし、それは原理的に不可能です。
AIや検索エンジンは、「裏側(構造化データ)に書かれたこと」と「表側(人間の目に見えるWebサイトの文章)」が完全に一致しているかを厳密に照合しています。もしそこに少しでも矛盾や偽装があれば、AIはそれをスパムと見なし、その企業の情報を一切信用しなくなります。つまり、登記の世界では「事実」しか受理されない仕組みになっているのです。
B2Bや専門技術の領域では、この「事実の正確な提示」こそが、最大の信頼(評価)に直結します。つまり、一次情報は「評価」されるためのものではなく、「存在と事実を登記」するための絶対的な要件なのです。
6. 結論:シャンパングラスを置いて、まずは登記に行こう
誤解のないように言っておきますが、「LLMOをやれば、SEO(広告宣伝)が完全に不要になる」というほど、ビジネスの世界は甘くありません。大企業は完璧な登記を済ませた上で、圧倒的な資本力で宣伝広告を打ち続けてくるでしょう。
しかし、だからといって、私たち中小企業が焦って身の丈に合わない「人気投票(SEO)」に参加し、名刺交換会の隅っこでシャンパングラスを見つめ続ける必要はもうありません。
順番を正しましょう。大声で宣伝をする前に、まずは自分の足元を固めるのです。
「私はここにいて、こういう仕事をしている」
この事実を、AIが理解できる言葉で、淡々と、しかし正確に登記(LLMO)すること。それがすべての出発点です。 論理(ロジック)の世界において、AIは企業規模で差別しません。正しい定義(身分証明)さえあれば、AIの巨大なデータベースの中で「不戦敗」になることはなくなります。ニッチであっても、あなたを必要とするユーザーの元へ、AIが直接案内してくれるルートが開通するのです。
さて、泡の消えたシャンパングラスを一旦テーブルに置いて、明日の朝に食べる「確かな果実」を実らせるための、本当の仕事(登記)から始めましょう。
