#281 「有用なコンテンツ」が奪うもの。 なぜ自社のWebサイトになると「コスパ至上主義」に陥るのか?

Mar 16, 2026By habitus
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「有用なコンテンツ」が奪うもの。
なぜ自社のWebサイトになると「コスパ至上主義」に陥るのか?

最近、デジタルマーケティング界隈で、再びある言葉が呪文のように唱えられ始めています。

「AI時代だからこそ、独自の一次情報を活かした『有用なコンテンツ』が重要です」

実際、今後の戦略の柱として「広告依存から脱却し、自社コンテンツに投資する」と回答する企業が急増しているそうです。
最新のSEOトレンド記事を見ても、決まって「AI時代においては、専門知識に基づいた、人間のための『有用で高品質なコンテンツ』が評価される」と書かれています。

…またか。これが私の正直な感想。
Web制作の現場に長くいる人間からすると、既視感と、得体の知れない気分の悪さを覚えます。

「コンテンツが重要」だというのは、AI時代になるずっと前、Webサイトの黎明期から自明の理でした。私たちもそう主張してきましたし、お客様も一生懸命記事を作ってくれました。"CONTENT IS KING !  "
しかし、デジタルマーケティング界隈が声高に叫ぶ「有用(役立つ)」という言葉には、コンテンツ戦略において最も大切なものがすっぽりと抜け落ちている気がするのです。

「有用」とは、一体「誰にとって」の有用なのか?

既存顧客か、見込み客か、求職者か。当然「誰にとって」という問いがついて回ります。真っ当に情報を届けようとすれば、ターゲットの解像度を極限まで上げる(=誰を捨てるかを決める)という、ツラく、時間のかかる思考作業が必要です。

しかし、デジタルマーケティングの名の下で「有用」という言葉は一人歩きします。
ターゲットを絞り切れないまま、「フリーランスのライターを数十人集めて、有用な記事を毎月量産できますよ」という営業が平然と行われます。
現場を知らないライターたちは、誰に向けて書いているか分からないため、絶対に間違えないように「当たり障りのない、説明的で、結論を先延ばしにした文章」を書きます。
関わった全員が「有用」を勝手に解釈し、コスパよく生産した結果、どこかで見たような「コタツ記事」の山が完成するのです。
(ま、一時期それが問題になったこともありましたよね。ネットから拾った記事をつぎはぎして量産してた…みたいな)

誰にとっての有用なコンテンツなのか?

「メディアごっこ」と、アルゴリズムに奪われた言葉

少し時計の針を戻すと、この構造的な病の正体が見えてきます。
かつてWeb業界を席巻した「オウンドメディア」ブーム。企業はこぞって「ユーザーに役立つ情報を発信するメディアになりましょう」と言われ、そこに向かっていきました。
しかし、それは独自の思想や批評的視点を持った本来のメディアではありませんでした。
そんなことそもそも中小企業が(いや大きな会社ですらそう簡単には)できるわけないですからね。
いわば、CMばっかり流しているテレビみたいなものです。(当然、広告ばっかりじゃねーかと思った視聴者は離れていった…)
「検索トラフィックを集めて広告やリード獲得に繋げるための『集客装置』」の言い換えでしかなかったのです。

成果を求めるあまり、「有用さ」を測る基準は人間の感情から、Googleの検索アルゴリズム(SEO)の採点表へと完全にすり替わりました。
検索意図を網羅し、キーワードを埋め込み、見出しを整える。そうした効率化のルールが「唯一の正解」として固まり、企業のWebサイトから「体温」と「人間の言葉」が消えていきました。

彼らも悪意があったわけではなく、与えられたルールの中で真面目に「コスパ(効率)」を追求した結果でしょう。
Web上で何かを表現するときの「体裁」や「話法」——例えば、結論から書く、箇条書きでまとめる、誰にでも分かるように網羅する——そうしたものが、効率化やコスパ構造の中で、意識するしないに関わらず「唯一の正解」としてカチッと固まってしまった。
そして情報を提供する企業側もまた、アクセス数という目に見える分かりやすい数字を見せられると、「なるほど、Webではこういう表現が正しいのか」と、そのコスパ構造をすんなり受け入れてしまった。

中小企業は「誰にでも有用な説明文」を捨てよ

そして今、彼らはAI検索に対しても、同じように「独自の一次情報を『有用なコンテンツ』に加工しましょう」と迫っています。

もし、中小企業がまたこの競争に付き合えばどうなるか。
社長の主張したいこと。いうなれば、はっきり言い切れない「グレーのグラデーション」や、「ウチはこういう客は断る」というある種の偏屈な?こだわりは、「一般ユーザーにとって分かりにくいから」という理由で、またしてもノイズとして削ぎ落とされてしまうでしょう。

でも、お気づきだと思うのですが、社長にとっても、本当に情報を求めている顧客にとっても、一番知りたいのは、その「わかりにくいこと」「こぼれてしまうグレーの陰影」の方なのです。

中小企業は、デジタルマーケティングが仕掛ける「メディアごっこ」から降りるべきです。見ず知らずの検索者全員にとって便利な「業界のWikipedia」になる必要などありません。
100人に「わかりやすいですね」と言われる説明文よりも、たった1人の熱狂的な顧客に「あんたの会社のその偏屈なこだわり、最高だな」と刺さる言葉を残すこと。量より質。コンテンツ戦略の真意はここにあります。

万人向けの「有用さ」を競うコスパ構造は、もう忘れてしまいましょう。
世の中の「コスパ至上主義」にはうんざりしている人が多いのに、なぜ自分の会社のWebサイトのことになると、自らその渦中へ飛び込んでしまうのでしょうか。

等身大の不器用な言葉で、自社のありのままの「声」を語る。
そして、それをAIが迷わず読み取れるように、サイトの裏側で静かに「配線(構造化データ)」を整えておく。
AI時代に中小企業が生き残る道は、そこにあると考えています。