#439 第2章 「ウチの強みは何?」という質問に、自信満々で答えてしまうあなたへ
新コンテンツ戦略入門
第2章:「ウチの強みは何?」という質問に、自信満々で答えてしまうあなたへ
―「Not」の連鎖で削り出す、実存の監査(オーディット)
刷り込まれた「わかりやすさ」の暴力
経営コンサルタントやデジタルマーケティングの専門家がやってくると、彼らは決まって、ノートPCを開きながらこう尋ねてきます。
「社長、御社の強み(USP)は何ですか?」 「競合他社との差別化ポイントを、端的に3つ挙げてください」
以前の私は、こうした質問をされると口ごもってしまう経営者の方々に、ある種の「含羞(恥じらい)」や誠実さを見ていました(デジタルが苦手な中小企業のための「負けない」Web戦略論:第2回)。
自分の仕事が多義的すぎて、簡単な言葉では言い表せないという葛藤です。
しかし最近、事態はもっと深刻なフェーズに入っていることに気づきました。現代の経営者の多くは、この質問に対して口ごもるどころか、極めて流暢に、自信満々に答えてしまうのです。
「ウチの強みは、高い技術力と、迅速な対応、そして顧客に寄り添う親身なサポートです!」
それを聞いて、コンサルタントは「なるほど、素晴らしいですね」と相槌を打ちます。
しかし、少し立ち止まって考えてみてください。
それ、本当に「差別化」されていますか? 世の中の同業他社の9割が、まったく同じことを言っていませんか?
これは、検索エンジンの進化がもたらした「イデオロギーの完成」を意味しています。
例えば、私たちは何かを探すとき「渋谷区 Webコンサルタント 中小企業向け」と、単語をスペースで区切って検索します。本来の人間の言葉としては極めて不自然な行為ですが、私たちはいつの間にかそれが「自然で正しい検索の仕方」だと思い込まされてしまいました。
これと同じことが、ビジネスの自己紹介でも起きています。「エレベーターピッチ(数十秒で自社をアピールする話法)」がもてはやされる中で、企業は自らの複雑な姿を、他人が用意した「わかりやすい平均的な言葉」の型に無理やり押し込み、それが自社の本当の姿だと信じ込んでしまったのです。
AIという「平均化マシン」の残酷さ
人間相手なら、「親身なサポートです」と答えれば、その場の空気や愛想笑いでなんとなくやり過ごせます。しかし、AI(大規模言語モデル)の時代において、この「平均的な言葉による自己定義」は、自らを滅ぼす行為になります。
AIは、類推(アナロジー)の達人です。
膨大なデータの中から「AとBは似ているから、たぶんCもこうだろう」と推測して、空白を埋めるのが猛烈に上手い。いわば「平均的な正解」を導き出す超・天才です。
もしあなたが、Webサイトの表側に「高品質・短納期・親身なサポート」とだけ書いていたらどうなるか。AIは「ああ、よくある一般的な企業データのパターンですね」と瞬時に処理し、御社を「その他大勢(平均)」という巨大なフォルダに投げ込みます。AIは忖度しません。「この会社、何か他とは違う凄みがあるな」と行間を読んで立ち止まることなどなく、1秒であなたを「特徴のない平凡な会社A」として確定させてしまうのです。
運慶の仁王像と、自らの「監査」
では、この「平均化マシン」に対抗し、AIに自社の固有の輪郭(エンティティ)を認識させるにはどうすればいいのでしょうか。 それは、広告的に「新しい強みを作り出す」ことではありません。
夏目漱石の『夢十夜』の第六夜に、鎌倉時代の仏師・運慶が仁王像を彫る話が出てきます。見物人が「よくあんな風に眉や鼻をノミで作れるものだ」と感心していると、ある若者がこう言います。 「あれは眉や鼻をノミで作っているんじゃない。木の中に埋まっている仁王を、ノミと槌の力で掘り出しているだけだ」
コンテンツ戦略の最初のステップとして、クリスティーナ・ハルヴォーソンは「Discovery & Audit(発見と監査)」の重要性を説きました。
この「Audit(監査・棚卸し)」とは、Webサイトに何ページあるかを数えることではありません。
すでに自社の中に埋まっている「実存」を、余計なものを削ぎ落として掘り出す作業のことです。自ら「こう見せよう」と厚化粧をするのではなく、世界(社会や顧客)とぶつかり合う中で、自ずと立ち現れてくる自社の姿を見出す。ちょっと大袈裟に言えば、現象学的な還元のようなプロセスです。
「Not(〜ではない)」の連鎖で境界線を引く
その「仁王を掘り出すノミ」となるのが、「Not(〜ではない)」という否定の言葉です。
自社を肯定的な言葉で定義しようとすると、どうしても「高品質」のような手垢のついた平均的な言葉に引っ張られます。 そうではなく、普段、世間や顧客から見られている一般的なカテゴリーに対して、「いや、そうじゃないんだよ」と日常的に感じている鬱憤や違和感を、ひたすら吐き出してみてください。
「ウチはWeb制作会社だ。だが、言われた通りのコードを書く下請け業者ではない」
「ウチは工務店だ。だが、効率優先で新建材ばかり使うメーカーとは一緒にしないでくれ」
この「〜ではない」「〜とも違う」という否定の連鎖。世間のステレオタイプに対する「No」を打ち込み続け、余計なものを削ぎ落としていった最後に残る、言葉にするのも難しい「正体不明の何か」。それこそが、御社の中に埋まっていた独自の輪郭です。
AIの認識が反転する瞬間
ここで、AIというシステムの面白い「二重のひねり」についてお話ししましょう。
AIは、放っておけばすべてを平均化しようとする残酷なマシンです。
しかし、この「Notの連鎖」によって作られた明確な境界線(例えば「〇〇の業務は対象外とする」といった論理データ)をきっちりと裏側で渡してやると、AIの振る舞いは一変します。
「あれ?、この会社は既存の『一般的な工務店』のパターンには当てはまらないぞ。平均的なカテゴリーに収まらない、固有の存在(エンティティ)だ」
論理的な境界線(Not)を与えられた瞬間、AIは御社を「その他大勢」から切り離し、固有の文脈を持った専門家として正確に認識し始めるのです。
平均化マシンであるAIが、論理を与えられた途端に「違い」を理解する。これこそが、AI時代における情報設計(LLMO)の最大の醍醐味です。
さて、自社の中に眠る「仁王像」の輪郭が見えてきました。
人間の心を惹きつける「詩(情緒)」と、AIに自社を正確に定義させる「論理(Notの境界線)」。 この相反する二つの要求を、ひとつのWebサイトの中でどうやって両立させればいいのか?
私たちのお客様は、AIではなく「生身の人間」です。Webサイトを訪れた人間の見込み客に対して、入り口からいきなり「俺たちはあれではない、これも違うよ」「こういう客はお断りだ」と偏屈な演説をぶってしまえば、間違いなくドン引きされます。「なんだこの面倒くさい会社は」と、静かにブラウザの「戻る」ボタンを押されておしまいです。この偏屈な「Not」の連鎖を、そのままWebサイトのトップページに大書すれば、人間の顧客は「なんだこの面倒くさい会社は」と逃げてしまいます。
人間の心を惹きつける「情緒」と、AIに自社を正確に定義させる「論理」。 次回は、この相反する二つをひとつのWebサイトの中で両立させる、これからの時代の「戦略的二枚舌」の構造についてお話しします。
