#463 AI時代が経営者に突きつける、Webサイトのパラダイムシフト
AI時代が経営者に突きつける、Webサイトのパラダイムシフト
—「集客」を捨てたIT社長の話の続き
先日、以前から付き合いのあるBtoB企業の社長から連絡がありました。前回のブログで、「最近、一生懸命記事を書いても反響がない。もうSEOの施策は全部やめたよ」と宣言していた、あのIT企業の代表です。
「ウチ、業者との契約を全部やめたって言ったでしょ。以前、話してくれた『LLMO(デジタル登記)』ってやつ、ウチも本格的に手伝ってください」
彼はサーバー管理やインフラ構築を手がける技術のプロですが、Webマーケティングの専門家ではありません。
これまでは業者の言う通りに毎月安くない費用を払い、せっせと「おすすめのサーバー構築」といったような記事を量産し、自分でもアクセス解析(GA4)のグラフを眺めては一喜一憂していたような人です。
そんな彼が、なぜ急に不毛な集客ゲームから降り、「LLMO」という新たな概念に取り組もうと決断したのか。そこには現代の中小企業が直面する、非常にリアルな葛藤と気づきがありました。
グラフが急転直下した日と、業者の「矛盾」
きっかけは、ここ最近の「ページビュー(PV)の激減」だったそうです。
検索結果にAIの回答が直接表示されるようになったことで、彼がお金をかけて育ててきたブログ記事へのアクセスが見事なまでに落ち込みました。
「最初は焦りましたよ。でも、数字を冷静に見て気づいたんです。今までウチのサイトに来ていたアクセスの大半は、ボット(機械)か、ちょっと調べ物をしているだけの冷やかしだった。そんなものを集めるために、毎月お金を払って、本業の専門性とは関係のない薄っぺらいコラムを書き続けていたのかと」
そう気づき、すっかり憑き物が落ちた彼ですが、最近かかってくるWebマーケティング会社からの営業電話に対して、強烈な違和感を覚えるようになったと言います。
ある業者は、相変わらず「もっと記事を量産してアクセスを集めましょう」と古い提案をしてくる。別の業者は、「これからはAI検索の時代です。AIに優先的に引用されるための対策をしましょう」と最新のトレンドらしきことを言ってくる。
しかし、その「AI対策」の具体的な中身を聞くと、結局のところ「AIが読みやすいように、人間向けにも分かりやすい良質な記事をたくさん書きましょう」という、昔からあるSEOの焼き直しでしかないとのこと。
「AIという冷徹な機械システムを相手にするのに、裏側の技術的なデータ構造(テクノロジー)についての説明が一切ないんです。結局、彼らは自分たちの『記事量産モデル』を売りたいだけじゃないか、と冷めてしまって…」
Webサイトは「集客のモデル」から「組織の定義をする場所」へ
現在、彼の会社のWebサイトは、私と一緒に「AIに向けた裏側の基礎工事(LLMO)」を進めています。
LLMO(大規模言語モデル最適化)とは、AIに対して自社の「事実(Fact)」を機械が正確に読み取れるデータ構造(JSON-LD等)にして、Webサイトの裏側に直接記述していく作業です。
しかし、この「AIへのデジタル登記」を行うためには、どうしても避けられない前段の作業があります。
それは、経営者自身が「自社は何者であり、何の専門家なのか」「どんな使命を帯びていて、逆に何をやろうとはしていないのか(Not)」を、しっかりと言語化し、定義することです。
「ウチのサイトをAIに正しく認識させようと思ったら、結局『自分たちが存在している意味』を突き詰めるしかないんですね」
ある日の打ち合わせで、彼はそう漏らしました。これまでは「どうすれば検索キーワードに引っかかるか」という、不特定多数の顔色をうかがう表層的なマーケティングばかりを考えていた彼が、「我々の本質的な価値(実存)はどこにあるのか」という深い問いに向き合い始めたのです。
その時、彼ははっきりと気づいたはずです。AI時代において、Webサイトはもはや網を広げて人を集める「集客のモデル(チラシ)」ではなく、自社をデジタル空間に定義し、AIというシステムに正しく学習させる「登記の場所」へと、その役割を根本から変えたのだと。
「実務」が「教養」に変わる瞬間
自社を定義するという知的刺激が、彼を意外な行動へと駆り立てました。先日会った時、彼のカバンからは、いわゆるノウハウ系のビジネス誌ではなく、言葉の意味そのものを問うような古典的な人文書がのぞいていました。
「いや、LLMOで自社の定義を考えていたら、もっと根本的な『言葉』や『思想』の成り立ちを知りたくなってしまって。自分のビジネスを思想的なレイヤーから考えるのって、苦しいけれど面白いんですね。難しいこといっぱいあって、こっちも今度詳しく教えてくださいよ…」と。いやはや…。
かつての彼にとって、Webサイトは単なる「アクセスを集めるための装置」でした。 しかし、AI時代に自社の実存を正しく「登記」しようともがく過程で、彼は図らずも、自分自身の内側にある本質的な「問い」に出会ってしまったようです。
最近、経営者の間で哲学などの「リベラルアーツ(教養)」を学ぶことが静かなブームになっていると聞きます。それは生活が安定したあとの嗜みとして捉えられがちですが、彼の姿を見ていると、どうやら順番が逆なのだと気づかされます。
AIという巨大な知性に対して、自社の事実をいかに誤解なく定義し、輪郭を保つか。 その極めて「実務的」な危機感こそが、経営者に真の「教養」を求めさせるのです。
かつて私が「骨太なWebサイト」と呼んでいた、あの確固たるアイデンティティの探求が、いま、AIというシステムを通して、一人の経営者を新しい知の領域へと導いています。
「なんだかウチのサイト、本当の意味で骨太になっていくような気がしてきました」
そう言って笑う彼の横顔を見て、私は、我々ハビタスが裏側のインフラ構築とともに提供しているのは、単なるWeb制作ではなく、こうした「経営者が自社を定義し直すための、知的な壁打ち」なのかもしれないと、少し誇らしい気持ちで頷くしかありませんでした。
